冬のライチョウ [山行2012]

乗鞍岳 ライチョウ観察会   2012・3・17-18      21名参加

                                                     長野県山岳協会自然保護委員会主催

  天気予報は最悪。低気圧が日本を覆い、南風が吹き込むと同時に前線が通過し、不安定な天気になる。Uさんから昨夜「決行するの?」と電話があった。委員長に確かめると、誰からも問い合わせはないし、今のところやるとのこと。山岳会で山に行くとしたら、多分中止にしているだろうなと思いながらも、乗鞍スキー場第3駐車場に全員集合し出発。リフトで上がり始めると、雨交じりの雪に横殴りの風が吹き付け、前を見ていることが出来ない。  しかし、今日は実行する。

 リフト終了点で再集合。3班に分けて出発。

 講師をしていただく信州大学の中村浩志教授は一足先に出発されて行ったが、その軽快なスノーシューさばきにみとれた。

 9時出発。ワカン・スノーシュー・山スキーなどそれぞれである。約2時間登った所で、下って来るスキーヤーに会う。事務局長の知り合い。「上は凄い風でしたよ。下の小屋付近で降りてきました。」と言う。乗鞍は上に出たら遮るものが何も無いので、まともに風を受け歩くことも困難な時が多い。やはり今日も同じだ。

 2時間半歩いた所で、剣ヶ峰と位ヶ原山荘の分岐となり、樹林に入って一休み。そこから赤旗が10Mおきに立てられている右に回り込んで行った。左の尾根で風が遮られ歩きやすかった。

 30分もすると山荘の屋根が見えほっとする。林道は雪でいっぱいになり斜面の続きのように盛り上がっていた。雪が柔らかいので、滑落することはなさそうだった。一か所雪崩れる場所では、間をあけながら素早く通過。無事山荘に到着。

  しばらく休み、希望者は観察に出かけることになった。山荘から上のダケカンバがぽちぽちと生えている位ヶ原一帯にライチョウは生息しているとのこと。登って行った。

 すぐに院生の小林篤さんが「いました~」と叫ぶと同時に斜面を勢いよく駆け上がって行く。見るとライチョウも斜面をとっとことっとこ素晴らしい速さで駆け上がる。中村先生が「上に廻って。上に廻って!」と叫ぶ。小林さんは斜面を走る。ライチョウとの競争であるが、ライチョウの速さは本当に凄い。ダケカンバの木々の間からちらちらと姿を見せながら上へ下へと走り廻った。

 写真機を出している間にライチョウは見えなくなってしまう。2羽のうち一羽だけやっと画面に入れることが出来た。見えるかなあ。

IMG_6095 斜面を素早く走るライチョウ2.jpg

斜面をトラバースしながら探す・・・・いました!ところが、観察未熟者集団では、後ろから追いかける形になってしまい先生から指示された取り囲みには失敗。しばらくして、Uさんがストックを上げて合図を送ってきて、その場を囲むように大きく巻いて上に登って行った。皆で取り囲む。Uさんは見事先回りしてライチョウをストップさせることに成功。雄3羽の群れを間近に見ることが出来た。

IMG_6099  三羽の雄2.jpg

満足に浸っている間もなく、後ろにも、横にも次々とライチョウが姿を現わした。先生は、「足環付いていた?何色?」と聞いてくるのだが、赤らしき色は見えても、赤?オレンジ?・・という程度であって、識別は難しかった。

 今日見たのは雄ばかり。標高2500Mの位が原周辺には雄のみが越冬するとのこと。2.3羽ずつで群れて生活する様子を見ることが出来た。雌はもう少し下の急斜面で冬を過ごすのだそうだ。

 コメツガの木の根元にライチョウの雪穴を発見。ちょど体がすっぽり入る大きさで尾羽の辺りに十数個の糞がある。このような所で顔だけ出して、休んだり、夜を過ごしたりしているようだ。糞は細長い。ダケカンバの幼木の芽を食べていることが分かった。

IMG_6116 ライチョウの糞.jpgIMG_6120 ライチョウの雪穴.jpg

 気付いてみると、氷粒になったみぞれがばしばしとウェァーに打ち付ける吹雪の中にいた。ライチョウを無我夢中で追いかけている間、この春の嵐を忘れていた。むしろ心地よささえ感じている。出発時、中村先生の満面笑みと、弾む足取りがこれで納得できた。

 山荘に帰り、中村先生と院生小林篤さんの貴重な話をお聞きした。小林さんの発表で印象に残っているのが雛の生存率。卵から孵化直後1ヶ月くらいの間が急に落ち込んでいる。9月になると雛はほぼ親と同じ大きさになり冬を越すことが出来るまでになる。夏と冬の生存率を比べると冬は一段上に折れ線を並列することが出来るほど差がみられ、命を落とすのは夏の間に多いことが歴然としていた。また、日本のライチョウの卵の数は北極圏のライチョウよりも少なく平均5~6個位、子育てが一番うまくできるのは生後2~3年位・・・などライチョウの生息状況を月ごとに何年も続け、つぶさに調査してまとめた貴重な発表だった。

 吹雪の中で、7羽のライチョウに行き会った今日の観察では、識別など難しかった。山の急斜面を登ったり下ったりしながら、ライチョウを探し、調査を続ける。その大変さを思わずにはいられない。

次に中村先生からライチョウの置かれている厳しい現状と原因、そして現在ライチョウを増やすために取り組んでいることなどお聞きした。

 南アルプス白根三山におけるなわばり数の変化のグラフが示された。1981年真っ黒に書かれていたなわばりが、20年の間に本当に少なくなりまばらになってしまった。南アルプスではライチョウが減少している。

IMG_6127 縮小.jpg

しばらく前まで長野県には約3000羽いると言われていたライチョウが、最近の調査で、推定1653羽であると言う。随分減ってしまった。

 日本の高山は聖域として守られ、人々は近くの里山を利用し自然と共存した生活をしてきた。それが高山帯の植物をそのまま残してきている。世界中で滅んでしまった貴重な高山植物帯を日本は持っている。しかし、今、そのバランスが崩され、低山の動物が高山帯に侵入し南アルプスでは山頂まで被害が拡大している現状である。北アルプスにもその危機は迫り、イノシシ、ニホンザル、クマ等による様々な害が見られている。日本のライチョウにとって緊急の課題は、高山に侵入した野生動物の問題である。

 「大切なものは、失くした時に気づくのです。」・・・と中村先生は危機感を訴える。

卵から孵化した雛の一カ月間の生存率を上げるために、子育てにあたる雌と雛をゲージの中に誘い入れ、外敵から守ろうという試行が始まっているとのこと

 現在、ライチョウをとりまく様々な問題が進行している。先ず、低山動物の高山への進出である。ライチョウの天敵であったり、食草を食いつくしてしまう。また、少ない個体数ゆえに山岳ごとの遺伝的隔離による適応力が低下している。地球温暖化により棲むことが出来なくなる。など危機が迫っている。

 低山動物が高山進出するようになったのは、日本人の生活が変化したことによる、人と野性動物の棲み分け構造の崩壊が挙げられる。我々人間の生活がライチョウを追いやってきた。

 日本の高山には高山植物がまだ残されているが、これらが無くなってしまったときに、初めて人はその貴重さに気づく。それでは遅い。今の現実を見つめ保護することを実践することが大切である。

 最後にこの写真は、Kさんが撮ったものをおかりして記録として残したい。雷鳥が人を恐れない歴史を築いてきた日本の素晴らしさをこの姿に託したい。

P1 純白のつがいに逢えた 縮小.jpg


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